商品代を振り込んだ翌日から、担当者の返事が遅くなった。振り込む前は、佐野さんが夕飯を作っている間にも三通届いていたのに。今は「確認中です」という短い返事が一日一回。商品だけでなく、担当者本人までどこかの倉庫で止まっているのだろうか。

約束の日を過ぎても、出荷の連絡は来ない。すると今度は別の担当を名乗る人から、「手続きのため追加の費用が必要」と連絡が来た。先に払ったお金が惜しくて、佐野さんの指はまた送金ボタンへ向かいかけた。

これは架空の物語です。返事の遅れや納期の変更だけで、詐欺と確定するわけではありません。ただし、不審な説明が重なっているのに、すでに払ったお金を取り戻したい気持ちだけで追加送金を決めないことは大切です。

立派な商品写真と、取引できる会社は別の確認

佐野さんが最初に見たサイトには、工場の写真と、きれいな商品一覧が載っていた。会社案内もあった。「ここまで作ってあるなら大丈夫」と思ったが、その写真が実際の取引先の設備なのかは確認していない。

ウェブ上の見栄えは、商品を知る材料にはなる。しかし、会社が実在するか、連絡を取っている人にその会社で取引を進める権限があるか、支払先が正しいかを、それだけで確かめたことにはならない。

相手が送ってきた資料を、その相手へ聞き直すだけで確認を終えると、説明が一つの輪の中で完結する。会社名や住所、連絡先、取引履歴などを、独立した情報や正式な窓口と照らせるかを考えたい。確認できる範囲は国や地域で違い、書類が一枚あれば万全という話でもない。

佐野さんは、商品の細かな色の違いには十通も質問していた。ところが、誰と契約するのかについては、サイトのロゴを見ただけだった。商品の確認と、相手の確認。必要な二つの仕事のうち、楽しそうなほうだけ熱心にしていたのだ。

安い初回サンプルが、次の大口取引まで保証するか

最初のサンプルは届いていた。佐野さんが安心した一番の理由はそれだった。返信も早く、品物も説明どおり。だから、次はまとめて買っても大丈夫だと思った。

小口で取引を試すことには意味がある。品質や対応を確かめる機会になる。ただし、その結果から分かるのは、その取引が完了したということだ。金額を何十倍にもした取引や、別の商品の納品まで保証されるわけではない。

取引額が増えれば、こちらが負う損失も増える。支払い条件、検品、出荷の確認などを、規模に応じてあらためて考えたい。前の一回がよかったという安心感だけで、確認する項目を減らしてしまうのは逆方向だ。

また、実際には問題のなかった会社でも、大きな注文を予定どおり処理できないことがある。最初からだますつもりだったのか、能力や資金の問題なのかは、連絡画面だけでは判断できない。どちらであっても、自分が払える損失の範囲を超えてよい理由にはならない。

振込先が変わった。そのメールは誰から来たのか

佐野さんの取引では、送金直前に振込先の変更があった。「経理の都合です」。説明は短く、急ぎだという。佐野さんは、請求額が同じだから大丈夫だと思ってしまった。

口座名義が契約相手と違う、会社の所在地と関係の分からない国の口座になっている、変更理由がはっきりしない。こうした点は、いったん止まって確認するきっかけになる。事情が説明される正当な変更もあり得るので、一つの違いだけで結論を出すのではなく、整合性を見たい。

確認するときは、変更を知らせてきたメールへ「本当ですか」と返すだけでは不十分なことがある。取引先になりすました連絡なら、同じ相手が「本当です」と答えられるからだ。あらかじめ確認した別の正式な連絡経路で確かめる意味がある。

相手から渡された新しい電話番号だけを使えば、確認先まで相手に用意されてしまう。送金先を変える操作は数秒でできても、間違って送ったお金が数秒で戻るとは限らない。急いでいるときほど、便利さと安全さを同じ物にしないほうがよい。

「あと少し払えば届く」が、ずっと終わらない

手数料、税金、証明書、保管費。追加で払えば商品を出せるという説明が続くと、佐野さんは「ここまで払ったのに、今やめたら全部無駄」と考えた。最初の支払いが、次の支払いを正当化する理由になっていた。

輸入には、当初の見積もり以外の正当な費用が発生する場合もある。だから追加請求を全部不正と決めつけるわけにはいかない。問題は、何の費用で、誰が負担する契約で、誰に支払うのかが確認できるかだ。

説明が毎回変わる、根拠となる書類が出ない、確認しようとすると急がせる。こうした状況で「最後の一回」という言葉だけを信じれば、最後が何度でも更新される。先に払った額の大きさと、次の請求が正当かどうかは別の判断にしたい。

JETROも、国際的な詐欺や前払い取引のリスクについて注意を促している。必要なのは「海外は全部危険」という決めつけではなく、前払いした側が商品を受け取れない可能性を理解し、不審な説明へ追加のお金を重ねない姿勢だ。

連絡が取れなくなったら、記憶より記録を集める

佐野さんは、やり取りを読み返そうとして、メッセージが一部見られなくなっていることに気づいた。取引が順調なときは、必要な記録を後で取ればよいと思っていた。しかし、問題が起きた後にも相手のページがそのまま残るとは限らない。

注文の内容、契約条件、請求書、支払いの記録、口座情報、相手とのやり取り。普段から整理しておくと、いつ何を約束し、何が履行されていないのかを説明しやすい。画面の一部だけでなく、日付や相手が分かる形で残すことも大切だ。

不審な送金に気づいたら、利用した金融機関や決済サービスへ速やかに連絡し、取引状況や対応可能な手続きを確認したい。警察や、取引に応じた相談先へ相談することも考える。ただし、連絡すれば必ず資金を取り戻せると期待して、さらに別の支払いをしないよう注意したい。

事業用の仕入れは、一般の消費者として買う契約とは、使える相談制度や保護が異なることもある。高額な取引や複雑な契約では、契約前に専門家へ確認する費用も、仕入れの判断に含めたい。

相談するときには、希望する解決も整理しておく。商品の引渡しを求めるのか、取引をやめて返金を求めるのか。相手へ何を伝えたかが曖昧だと、状況の説明にも時間がかかる。困ったときの記録は、相手を責める言葉の量ではなく、日時と事実を追えることが大切だ。

疑うためではなく、払う理由を確かめるために

前払いを求める会社がすべて詐欺というわけではない。売る側にも代金回収への不安がある。双方のリスクをどう分担するかが支払い条件であり、安い価格だけでその条件まで引き受けてよいとは限らない。

注文額を小さくする、段階を分ける、支払い方法の保護や条件を確認する。取引の実態に合う対策を考えたい。いずれも絶対安全の札ではなく、損失の可能性と、取引を続ける費用を比較するための工夫だ。

連絡が遅い理由が通常の生産や輸送の問題だった場合は、納期遅延と販売時期の話が関わる。商品の事故が起きた後に仕入れ先と連絡できない問題は、海外の仕入れ先が返信しない事故対応で別に扱う。届かない話と、売った後の責任は混ぜずに確認したい。

「簡単だから確認はいらない」という勧誘に心が動いたなら、一日十分で稼げる広告の省略も読んでみてほしい。簡単なのが送金操作だけなら、その後に困る時間まで短くなるわけではない。

佐野さんは、次の送金を止め、記録をまとめて相談することにした。商品の到着を待つ間に、自分の判断まで相手へ預けない。仕入れで買うのは商品であって、確かめようのない説明への期待ではないのである。

参考:JETRO・輸入代金前払決済のリスク回避策、JETRO・国際的詐欺事件について。本文は架空の事例で、実在する被害の再現ではありません。

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