売れた商品は二千円。仕入れと販売に伴う費用を引き、残ったのは五百円だった。販売者の健太は、その五百円を見て満足した。千個なら五十万円。頭の中で掛け算をするのは、発送作業よりずっと速い。

数日後、購入者から連絡が来た。「使用中に壊れて、そばにあった物も傷つきました」。健太は急いで返金の画面を開いた。二千円を返すボタンはある。しかし、事故の説明を読んでいるうちに、このボタンだけでは話が終わらないことが分かってきた。

これは、商品の事故対応を考えるための架空の場面です。実在の事故、損害額、判決を示すものではありません。売値や一個の利益は、事故で生じる損害の上限を自動的に決める数字ではないという点を扱います。

二千円の返金と、二千円では測れない話

「品物の代金は返します」。それは対応の一部として必要になる場合がある。しかし、商品の代金を戻すことと、その商品によってけがをしたり、別の物が損傷したりした場合の話は、同じではない。

製造物責任法が扱うのは、製造物の欠陥によって生命、身体、財産に生じた損害だ。ただし、その製品自体にだけ生じた損害は、この法律の賠償の対象とは区別される。製品だけの故障や不具合も、契約上の対応など別の問題があり得るので、何も責任がないという意味ではない。

健太が見ていた返金画面は、購入した商品の代金に対応するものだった。問い合わせには、それとは別の損害の話が含まれている。画面に返金機能があるから、返金後はすべて解決するという結論にはならない。

一方で、購入者が金額を提示すれば、その全額が当然に認められるわけでもない。事故の原因、製品の欠陥、損害、そのつながりなどを確認して検討する。商品の値段だけで小さく決めつけることも、請求だけで全面的に確定させることも避けたい。

小さな商品だから、問題も小さいと思っていた

健太の商品は片手に収まる大きさだった。仕入れ代も高くない。だから、扱う事業のリスクまで小さいと思っていた。しかし、商品が使われる場所や使い方によっては、小さな物でも周囲へ影響を及ぼす可能性がある。

ここで必要なのは、怖い事故を思いつく限り並べることではない。熱、電気、重さ、転倒、破損など、扱う物の性質から、どんな場面に注意が必要かを具体的に確認することだ。製品によって規制や必要な表示なども違うため、別商品の説明を流用して終えるわけにはいかない。

価格が安いことは、購入者が求める通常の安全性まで安くなる理由ではない。百円安いから、説明のない危険を引き受けたことになるわけではないのである。

健太は、商品選定の表に販売価格と仕入れ価格しか書いていなかった。用途と注意点、確認できる資料、問題が起きたときの連絡先を足してみると、安いから選んでいた品の中に、自分が十分に理解していない物がいくつもあった。

事故の直後に、結論より先にする仕事がある

連絡を受けた健太は、謝ることと責任を全部認めることの区別にも迷った。そこで、まず相手の状況を確認し、けがなどがある場合の安全を優先しながら、どの商品で何が起きたかを落ち着いて聞くことにした。

購入日、商品を特定できる情報、使用時の状況、写真や残っている製品、周囲の損害など。必要な情報を整理し、関係するやり取りを保存する。原因調査に必要な物を、急いで処分してもらうよう頼むのは避けたい。

対応の範囲に迷えば、製品や事故に応じた専門家、保険会社、関係機関などへ早く相談する。保険を使う場合には、事故の通知や交渉について契約上の手順があることもある。自己判断で約束を重ねてから相談するより、先に手順を確かめたい。

健太が欲しかったのは、誰かが一言で「あなたは払わなくてよい」と言ってくれることだった。しかし、事実がそろっていない段階で、その一言を探しても安全な対応は進まない。今分かることと、まだ分からないことを分けるほうが役に立った。

一個の不具合は、ほかの商品を調べる入口にもなる

今回の商品だけが壊れたのか、同じ時期に仕入れた商品にも関わる問題なのか。販売者にとって、目の前の一件へ返事をするだけでは確認が終わらない場合がある。

仕入れ先、納品時期、型番やロットなどが分かれば、どの商品の範囲を調べる必要があるか考えやすい。逆に、同じ物を複数の業者から仕入れて混ぜていたら、どれを誰へ売ったか分からなくなる。記録の手間を省いた結果が、販売後の大きな調査の手間になることもある。

必要に応じた販売停止、注意喚起、報告や回収の検討などは、事実と製品に応じて進める。事故一件でどの商品も必ず全面回収、という話ではないが、工場が大丈夫と言ったから確認不要、とも言えない。

健太は、その日出荷する予定だった商品を前に立ち止まった。急いで送れば今日の売上にはなる。ただ、同じ問題の可能性を確認しないまま送り続けてよいかは、別の判断だった。売上の締め日だけでは、決められない仕事がある。

「自己責任で使ってください」は、魔法の注意書きではない

販売ページへ注意書きを増やせばよいのではないか。健太はそう思った。適切な説明や警告は重要だが、とにかく自己責任と書けば、製品の安全性や責任の問題が全部なくなるわけではない。

使用を予想できる場面や製品の特性などを踏まえ、何を避け、どう使うか分かる説明が必要になる。実際には危険を避けられない仕様を、読む側へ丸ごと負担させる文言で覆っても、それで十分とは限らない。

外国語の説明書を同封しただけで、日本の購入者へ必要な情報が届くかも考えたい。翻訳の正確さ、図の意味、使ってはいけない条件など、購入する人が理解できる形になっているかという問題だ。

文章を作ることが面倒なので「詳しくはメーカーへ」と一行書いていた健太は、今回初めて、そのメーカーへ購入者が実際に問い合わせられるかを確かめた。販売前には短く済んだ一行が、販売後には長い説明不足になっていた。

事故の対応では、購入者へ案内した内容も残したい。電話で伝えたことが後のメールと食い違えば、原因の調査とは別に不信感を増やしてしまう。次にいつ何を連絡するかを整理し、分かっていないことを確定したように言わない。早い返事と、裏付けのない断定は、同じ親切ではない。

五百円を積み上げる前に、引き受ける範囲を見る

商売で利益を積み上げる計算には意味がある。ただし、一個五百円という数字だけで、続けるための費用や備えまで分かるわけではない。品質確認、問い合わせ、事故対応などを含めて、扱える商品かを考える必要がある。

輸入して販売する人の立場は作ったのは海外の工場という説明と輸入者の責任で、販売後の追跡や連絡は完売した商品が回収対象になったらで扱う。海外の取引先との費用負担は、仕入れ先が返信しない事故対応で別に考えたい。

物販以外の方法を比較するときは、物販とオンラインの副業の違いへ進める。商品を仕入れないアフィリエイトにも、誤解を招く広告を避け、紹介する情報を確認する仕事はある。リスクが消えるという売り方ではなく、役割と負担がどう変わるかで比べたい。

健太は、返金の画面を閉じた。返金しないためではない。商品の代金と、事故への対応を混ぜずに進めるためだった。安い物を一個売っただけ、という自分の感覚よりも、購入者の暮らしで何が起きたかを確かめる。その視点が、商売の計算表には一行足りなかったのである。

確認資料:製造物責任法、消費者庁・製造物責任法Q&A、経済産業省・リコールハンドブック。個別の責任判断や保険適用を示す記事ではありません。

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