販売企画の打ち上げで、亮介は画面を見せた。「売上百万円を超えました!」。画面の数字は大きく、矢印は上を向いている。参加した友人たちは拍手した。亮介自身も、今月はよくやったと思っていた。

そこで、経理を手伝う姉が聞いた。「広告はいくら使った?」。亮介は答えた。「三十万円」。拍手が止まったのは、それだけで赤字と分かったからではない。まだ誰も、商品代やほかの費用を確認していなかったからだ。

人物と企画、広告の実績は架空です。広告を使って売上を作ることと、その売上から費用を引いて利益を残すことは、同じ成果ではありません。売上を増やした矢印の先に、何が残っているかを考えます。

売上の報告会に、原価と広告費を並べてみる

この架空の企画では、売上百万円に対応する商品の原価を六十万円、広告以外の販売に伴う費用を二十万円とする。すると、広告費を引く前に残る金額は二十万円だ。

ここへ三十万円の広告費を引けば、残りは十万円のマイナスになる。税やほかの固定費を省いた単純な例なので、実際の決算を再現するものではない。しかし、百万円売ったことと、利益が出たことが違うのは分かる。

広告費三十万円だけを売上から引いて、七十万円儲かったと考えれば、商品の原価などが消える。反対に、商品代を引いただけで広告費を入れなければ、集客するために払ったお金が消える。費用は、画面ごとに別々に見ていると、合流する場所をなくしやすい。

亮介は、広告の管理画面と販売の管理画面を別々に開いていた。両方でよい数字を探すのは得意だったが、一つの企画として全部の費用を合わせるのは後回しだった。お金は、画面の境界線を気にしてくれない。

ROASが三百%でも、採算は別の話

広告費に対して、どれだけ売上につながったかを見る指標として、ROASが使われる。売上を広告費で割り、百分率で示す考え方だ。今回の百万円と三十万円なら、約三百三十三%になる。

百%よりずっと大きいので、広告が何倍もの利益を生んだように感じるかもしれない。しかし、比べているのは売上と広告費であって、原価やほかの費用を引いた利益ではない。

この例で、広告以外の費用を引いた残りが売上の二十%なら、広告費三十万円をそこで賄うためには、単純計算で売上一百五十万円が必要になる。ROASで見ると五百%だ。それでも、ここではほかの固定費などをまだ考えていない。

率だけを目標にすると、商売の条件が違う相手とも同じ数字で競ってしまう。高い粗利がある商品と、残りの薄い商品では、負担できる広告費が違う。誰かの「三百%なら成功」という一言を、自分の料金表へそのまま貼らないほうがよい。

広告画面の売上は、どこまでを数えた数字か

売上を広告の成果として集計する方法には、対象の期間や条件がある。広告を見た人が後で買った場合をどこまで含むかなど、設定や仕組みによって見え方が変わる。表示された数字を、すべて広告がなければ存在しなかった売上だと読み替えないことも大切だ。

また、売上の数字へ取消しや返品がどの段階で反映されるか、税や送料などをどう扱うかも確認したい。違う画面の数字を比べるときは、対象の期間と集計の条件を合わせる必要がある。

亮介の最初の報告では、販売全体の売上と、ある広告だけの費用を並べかけていた。自然に来たお客さんや別の施策の売上まで混ぜれば、その広告の成果が大きく見える可能性がある。

ここで必要なのは、完璧な因果関係を一瞬で解明することではない。何をどこまで数えた数字なのかを知り、分からない部分を分からないまま残すことだ。大きな売上の数字だけが、比較条件を超えて独り歩きしないようにしたい。

一人のお客さんを呼ぶために、いくら使えるのか

売上合計だけでなく、新しいお客さん一人を得るために使った費用を見る考え方もある。ただし、その人から得る売上全額を、集客に使ってよいわけではない。商品や提供する仕事の費用も必要だ。

仮に、一人の注文で広告以外の費用を引いて二千円残るなら、その人を得るために三千円使えば、初回の取引だけでは足りない。ほかの売上で補う計画があるのか、継続購入をどんな根拠で見込むのかを考える必要がある。

「後でまた買うはず」と期待するのは簡単だが、実際の再購入の頻度や費用が分からなければ、未来の売上を今の赤字の穴埋めに使っているだけになる。繰り返し買われる仕組みがあるなら、その実績と条件を見たい。

亮介は、商品を一度買った人が毎月買う計画にしていた。ところが扱うのは、長く使える丈夫な道具だった。お客さんにとっての丈夫さが、販売予測の中では毎月の買い替えに変わっていたのである。

増やしてよい広告と、急いで止めたい広告

一度のテストで赤字でも、商品や伝え方を確かめるために予算を使う判断はあり得る。大切なのは、何を知るためにいくら使い、いつ判断するかを決めることだ。試験の費用と、利益が出ている通常販売を同じ報告にしないほうがよい。

小さい予算でよかった結果が、大きくしたときも同じ割合で続くとは限らない。届ける相手の広がりや競争などが変わる可能性がある。広告費を二倍にしたら利益も二倍、と計画表で決める前に、段階を踏んで確認したい。

売上が増えると、対応する仕入れや配送も増えることがある。広告費を払えるかだけでなく、注文に応えられる在庫や作業の余裕、入金までの資金も確認が要る。集客の成功が、供給の混乱につながることもある。

亮介は、売上百万円という目標に追いつくため、月末に広告を増やしていた。後から見れば、目標の数字を作るために残りの利益を使っていた面があった。売上のゴールが、商売を続ける理由まで追い越していたのだ。

商品が複数あるなら、広告でどれが売れたかも見たい。売上全体が同じでも、残りの多い商品が中心なのか、原価の割合が高い商品が中心なのかで、負担できる広告費は違う。売れやすい商品へ広告が集まった結果、販売額は増えたのに店全体の採算が悪くなる可能性もある。売れた金額の合計だけでなく、その構成にも意味がある。

テストの予算は、うまくいった場合の利益だけを見て決めない。結果が出ないまま使い切っても、必要な生活費やほかの事業の支払いへ影響しないかを考える。途中で見直す日を決めておけば、あと少しで売れるはずという期待だけで追加する回数も抑えやすい。

姉は、広告をやめろと言いたかったわけではなかった。何が分かれば次に進むのかを、亮介自身が説明できる状態にしたかったのだ。費用を使う理由が売上目標の見栄えだけになっていないか。その確認は、広告を使う商売を長く続けるためにも必要だった。

お祝いの画面と、続けるための画面を分ける

広告で新しい人へ届き、注文が増えたことは成果だ。ただし、企画を続ける判断には、費用をそろえた別の確認が必要になる。売上、広告以外の費用、広告費、残る額を同じ期間で見たい。

一個の販売費用は手数料と送料が集合する話で、売上が増えても利益が減る別の例は半額セールの忙しさで扱う。商品原価を含む月商の読み方は、月商三百万円の物販でも確認できる。

アフィリエイトなどのサイト運営でも、広告で集客するなら同じように費用を考える必要がある。広告収入の大きさだけでなく、制作、集客、更新や外注を含め、売上と利益を分けて記録する。アクセスや売上の増加を、そのまま利益の増加へ変換しないことが大切だ。

亮介は、打ち上げの最後に報告を直した。「売上は百万円。今回は費用を合わせると赤字なので、次は条件を見直します」。拍手は小さくなったが、話は商売に近づいた。大きく売ることより、次も続けたいと思える残りを作ること。その順番を、広告の矢印へ任せないようにしたい。

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