土曜日の朝、藤井さんは車へ乗り込んだ。目指すのは、先週お得な商品を見つけた店だ。安く買って、費用を引いても利益が残る価格で売れた。いよいよ、同じことを繰り返せばいい。藤井さんの中では、週末の収入源が一本できたことになっていた。
ところが売り場には、商品がなかった。店員さんは「前の在庫限りです」と言った。隣の店へ移動しても見つからない。昼過ぎ、別の商品を探し始めたころ、売上より先にガソリンだけが順調に減っていた。
人物や数字は架空です。せどり全体が儲からないと断定する話ではありません。一回、安く買って売れた実績と、同じ利益を安定して繰り返せる仕入れは別物だという点を考えます。
処分価格には、処分する事情がある
藤井さんが買ったのは、棚の入れ替えで値下げされた商品だった。前の店にとっては在庫を減らすための価格であり、毎週同じ商品を同じ値段で供給する計画ではない。安かったことには、ちゃんと期限のある理由があった。
セール、閉店、季節の切り替え、展示品、数量限定。こうした条件を利用する仕入れでは、その機会自体が続くとは限らない。商品が売れたから、仕入れ先も同じ数を追加してくれるという関係ではないのだ。
再入荷した商品が、通常価格に戻ることもある。前回の販売価格で売れば利益が出たとしても、仕入れ代が変われば採算は変わる。「前に儲かった商品」という記憶だけで、今の価格を見ずに買い直すわけにはいかない。
藤井さんは、売れた商品名を一覧にしていた。そこへ「なぜ安かったか」という欄を足してみた。すると、安く買えた理由の多くが、来週は使えると約束できない事情だった。成功商品のリストはできていたが、継続仕入れのリストは、まだほとんど空だった。
同じ商品を売れなくても、同じ額を残す仕事は続く
一つの商品が手に入らなければ、別の商品を探せばいい。たしかにそれも方法だ。ただし、そのたびに相場、状態、販売にかかる費用、売れる見込みを調べる仕事がある。商品名を替えるだけで、前の判断が全部使えるわけではない。
中古品なら、同じ型でも状態や付属品に違いがある。動作の確認、清掃、撮影、説明なども必要になることがある。一点ごとの違いを適切に扱える人には価値のある仕事だが、「先週と同じ作業を短時間で繰り返せる」とは限らない。
新品の処分品でも、箱の傷みや保証の条件など、購入者へ伝える内容を確認したい。売り場で安い数字を見つけた瞬間に、必要な確認が全部終わるのではない。
藤井さんが最初に想像したのは、同じ商品の仕入れと発送を繰り返す仕事だった。現実は、毎回違う商品の小さな事業計画を作り直す仕事に近かった。前回の利益を、次回の商品まで自動的に育ててくれる肥料だと思っていたのが間違いだった。
店を三軒回った時間は、商品原価の横に置いてみる
仮に、一日の仕入れと販売で、商品代や販売手数料、配送費などを引いて六千円残るとする。ここから、その日の移動にかかった費用が千五百円なら、残りは四千五百円になる。さらに、確認や出品に使う時間もある。
たとえば、店を回るのに五時間、検品や撮影、出品に二時間使ったなら、合計七時間だ。四千五百円を七時間で割ると、一時間当たり約六百四十三円。この数字は雇用の時給ではなく、架空の一日の残りと自分の作業時間を比べた目安である。
自営業では、こうした自分の労働時間がそのまま帳簿の人件費になるわけではない。それでも、副業として続ける価値を考えるときに、使った時間を無視しない意味はある。売れた一品だけ切り抜くと、移動した七時間は画面の外へ消えてしまう。
反対に、得意な分野に絞り、近い場所や効率のよい方法で見つけられる人なら結果は変わる。大切なのは、誰かの一日の利益を自分の条件へコピーすることではなく、自分の移動、調査、処理まで含めた実績を取ることだ。
何も買わなかった日は、なかったことになりやすい
藤井さんが友人へ話すのは、よい商品を見つけた日だった。三軒回って何も買わなかった日は、話が短くなる。自分の中でも、そういう日は「下見」に分類され、せどりの労働時間から外されていた。
しかし、買える商品を探すことが事業に必要なら、見つからなかった日も必要な活動だ。利益が出た日だけの合計を、実際に使った全日数でなく成功した日数だけで割れば、働き方がずいぶんよく見える。
何も仕入れない判断は、むしろ大切なこともある。遠くまで来たからといって採算の薄い商品を買えば、帰り道に荷物は増えるが、事業の状態がよくなるとは限らない。空振りを認めたくない気持ちが、不要な在庫を連れ帰らせることがある。
藤井さんは、仕入れゼロの日も記録した。すると、自分が思っていたより「探す仕事」の比率が大きかった。会計上の売上がない日でも、休日と体力はちゃんと使っていたのである。
ネットで探せば、移動だけはなくなる。でも競争は残る
藤井さんは、店舗を回る代わりにネットで探すことにした。ガソリン代は減る。だが、公開されている値引き情報は、ほかの人も見られる。よい条件を見つけても、注文する前に在庫がなくなることもある。
商品の価格と販売相場の差だけを見ていたら、送料や購入数の条件を入れると差が小さかった。発送までの日数が長く、その間に販売相場が変わる場合も考えたい。移動しないことは便利だが、需要や採算まで安定するわけではない。
ポイントや割引の条件を組み合わせる方法もある。ただし、適用の上限、対象、利用期限などを確認しないと、想定した仕入れ原価にならない。付与される予定のポイントと、今払う現金の違いも見ておきたい。
この計算はポイント込みなら黒字という話で、同じ商品を扱う人が増える競争はネット物販と資金力の壁で分けて扱っている。画面の中だけで完結するからといって、商売の不確かさが消えるわけではない。
販売できた商品でも、補充できる数が少なければ、見込める利益には上限がある。一個で千円残るとしても、月に二個しか同じ条件で見つからないなら、それだけで毎月三万円にはならない。利益額に販売数を掛ける前に、その販売数を用意できる根拠を考える。仕入れの不安定さは、単価の計算では見えないところに現れる。
毎月の収入にしたいなら、仕入れの再現まで確認する
せどりを試すことと、毎月一定の利益を当てにすることは、違う段階の判断だ。どの程度の頻度で条件のよい商品が見つかるか。見つからない週を含めて、必要な利益と時間が釣り合うか。発見から入金までに、どれだけ資金を使うかを見たい。
得意分野の相場が分かる、状態を見極められる、仕入れの経路が複数あるなど、積み上がる知識や関係があれば強みになる場合はある。一方、誰でも見られる割引情報だけが頼りなら、自分以外の参入も想像しておきたい。
継続供給の確認は売れる商品を仕入れ続けられるかへ、商品を持たない方法との比較はせどり以外の副業の選択肢へ進むとよい。情報発信やアフィリエイトにも、調査と集客を続ける仕事がある。探す負担を見たくないから別の楽な宣伝へ移るのではなく、負担の種類を比べたい。
藤井さんは、次の土曜日に行く店を二軒へ絞った。よい商品がなければ買わずに帰り、その日も記録する。夢のある月収を先に決めるより、自分にできる仕入れを確かめることにしたのだ。
安く買えた一回は、確かな経験だ。でも、次の一回まで約束してくれるものではない。売れるかどうかだけでなく、利益の出る条件で仕入れる機会が続くか。その問いを持つだけで、休日のドライブは、少しだけ現実的な事業の調査になる。
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