「やっと、続けられる商品を見つけた」。村井さんは、仕入れ先に二回目の注文を送った。返ってきた返事は、感謝の言葉でも請求書でもなかった。「その型は終了しました」。村井さんは一瞬、自分の物販生活のことを言われたのかと思った。
売れる物を探すのは大変だ。しかし、見つけたところで物語が終わるわけではない。買いたい人がいることと、その人へ届ける商品を確保できることは、別々の条件だ。需要の山を登り切った先に、供給というもう一つの山が待っている。登山靴を片方だけ買って出かけるような計画になっていないだろうか。
登場人物や数量は架空です。特定の仕入れ先の対応を示すものではなく、継続仕入れを考えるための例です。
一回買えたことは、来月も買える約束ではない
村井さんの商品は、旅行に使う収納ポーチだった。最初の百個が順調に売れたので、販売ページを整え、使い方の写真も増やした。お客さんから質問が来るたびに説明を追加した。そのページは、村井さんの小さな努力の結晶である。
ところが仕入れ先は、工場に残っていた分を売っていただけだった。継続生産の予定も、村井さん専用に在庫を持つ合意もない。先方は、最初の百個を約束どおり納品している。勝手に「今後も同じ条件」と考えたのは、村井さんのほうだった。
在庫品の購入、都度生産、継続供給の契約は、同じ仕入れという言葉でも中身が違う。見積書の単価だけを読んで、供給期間や注文できる頻度を確認しなければ、次の注文時に初めて商売の前提を知ることになる。
売上予測には半年先まで数字が並んでいた。その下支えになる仕入れ条件は、最初の一回分しか決まっていない。表計算ソフトは、商品の終了通知を察して空欄に戻してくれるほど親切ではなかった。
同じ名前なのに、届いた商品が少し違う
仕入れ先が別の工場を紹介してくれた。「ほぼ同じ商品があります」。ほぼ、という言葉に希望を託してサンプルを頼むと、ファスナーの動きが違った。サイズも少し変わり、以前の写真にあった内ポケットはなくなっていた。
販売する側にとっては、同じ用途の代替品かもしれない。しかし、写真と説明を見て買うお客さんにとっては、その違いが購入理由に関わることがある。「似ています」では、商品ページとの不一致を解消できない。
前回と同じ工場から届いても、材料や部品、製造工程が変わる可能性はある。再注文だから確認不要、と省略した部分から問い合わせが増えることもある。継続仕入れで確認したいのは、商品が届くかだけでなく、約束している品質や仕様で届くかだ。
村井さんは、商品名ではなく仕様を書き出した。大きさ、材質、付属品、許容できる差、変更があるときの連絡方法。面倒な確認だが、到着後に百人へ事情を説明するより、発注前に一社へ質問するほうが話は短い。
最低発注数が増えたら、売れていても困る
代替工場の担当者は感じがよかった。ただ、最低注文数は五百個だった。村井さんは月百個ほどの販売を見込んでいる。百個売れる商品があることと、五百個を一度に持ってよいことは、どうも別の話らしい。
仮に一個千円なら、百個の仕入れに必要な商品代は十万円。五百個なら五十万円になる。保管や運送などの条件を除いても、四十万円を追加で商品に変えることになる。単価が少し下がったとしても、手元の現金が楽になるとは限らない。
しかも、五か月分の在庫を持つなら、その期間に需要や競合商品、販売価格が変わる可能性も考えたい。先の注文まで確定していないのに、「月百個だから五か月でなくなる」と言い切ると、予測がいつの間にか予約注文へ昇格してしまう。
この問題は、まとめ買いの値引きと売れ残りにもつながる。安く仕入れることだけを勝利条件にすると、量を買うほど苦しくなることがある。発注数が自分の販売量に合うかは、単価と同じくらい大切だ。
予備の仕入れ先は、連絡先があるだけでは足りない
「他にも業者を知っているから大丈夫」。村井さんはそう思っていた。しかし、いざ切り替えようとすると、価格、仕様、梱包、納期、返品条件が全部違う。同じ商品写真を使っていても、同じ取引ができるとは限らなかった。
見積もりを取ったことがある、サンプルを確認したことがある、小口の取引が完了している。この三つは安心感がまったく違う。メールアドレスを二つ持っているだけで、供給の予備が二本ある計算にしないほうがよい。
もちろん、どんな事業でもすべての供給リスクを消すことはできない。複数社への対応自体に手間や費用もかかる。それでも、切り替えにどれくらいの日数と追加資金が必要か分かれば、欠品したときの判断は変わる。
村井さんは、代替品をすぐ本商品として売るのをやめた。比較写真を撮り、説明を書き直し、別商品として試すことにした。売り場に空白ができるのは怖いが、違う商品を同じ物として送って信頼まで空白にするよりはいい。
欠品中にも、販売の費用は休んでくれない
商品がない日は売上が止まる。一方、利用しているサービスの固定費や、保管している別商品の費用まで一緒に止まるわけではない。販売を伸ばすために準備していた広告も、在庫を確保できなければ予定を変える必要がある。
欠品表示の間に、お客さんが別のお店を使うこともある。再入荷したら全員が戻ってくるとは限らない。長く欠品した商品へ広告を出し続ければ、せっかく来てくれた人に「今は買えません」と伝えるための費用を払うことになってしまう。
逆に、欠品を恐れて多めに持つと、在庫の負担が増える。多すぎても少なすぎても困るからこそ、仕入れは単なる注文ボタンの操作ではない。販売量の変動と補充に必要な日数を見て、どの程度の余裕を持つか考える仕事になる。
村井さんは、売上目標の横に「次を注文する時期」と「遅れた場合に止める施策」を書いた。気合だけで補充は早まらないが、早めに決めた対応は、慌てて払う追加費用を減らす助けになる。
仕入れ先に事情が起きた際、連絡が来るまで待つだけの関係なのか、自分から生産予定を確認できる関係なのかも違いになる。少量の取引先なら優先的に回してもらえる、と最初から期待するのは難しい。先方が何を確約し、何を確約できないと言っているかを書き留め、その範囲で販売計画を作りたい。期待を見積書の空欄へ書き足すのは、買い手側だけでできてしまう作業だ。
売り方を磨く前に、続けられる取引かを確かめる
次の発注まで価格が有効なのか。終了や仕様変更はいつ分かるのか。少量で補充できるのか。検品に問題があったときはどうするのか。聞きにくい質問を先にするのは、相手を疑うためだけではない。双方の想像している取引を合わせるためでもある。
初回の担当者の親切さも、もちろん大切だ。ただし、親切な人が異動しても続く条件が残っているかは、さらに大切になる。「いつでも相談してください」と「いつでも同じ商品を同じ価格で供給します」は、似ていない約束だ。
需要を確かめる段階は売れ続ける商品の探し方で、到着日が販売計画に響く問題は納期が延びて売り時を逃す話で扱っている。商品の選定、供給の確保、販売の準備を別々に確認すると、一つの好材料に全部を任せずに済む。
商品を仕入れずに情報から集客する事業を比較したいなら、自分の商品を持たない副業の選択肢も参考になる。ただし、在庫を持たない方法でも、記事の更新や紹介先の変更など、続けるための作業は残る。
村井さんは、今度の発注メールに一文を足した。「今回だけでなく、次回以降の条件も教えてください」。前回より少し長いメールだが、半年分の売上を想像だけで埋めるより、ずっと現実に近い一行だった。
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