初めての大口注文が決まった。百万円の取引だ。敦は、請求書の金額を何度も確認した。桁を間違えたのではない。本当に百万円になっている。友人へ送る報告にも、いつもより感嘆符を増やした。

商品を納め、必要な書類も送った。ところが、口座の残高は前と同じだった。振込予定は翌月末。商品を仕入れた支払いは、その前にある。「売上はあります」と言う声と、「今のお金は足りません」という口座が、同じ店の中で共存していた。

人物、取引、日付は架空です。売上の発生と、代金を実際に回収することは、時期も確認する仕事も違います。請求書を作っただけで商売が完結したつもりにならないための話です。

商品を渡した後で、お金を受け取る取引

取引先へ先に商品などを提供し、決めた日までに代金を払ってもらう取引がある。いわゆる掛けの取引だ。売上を認識する時点は契約とルールに沿って判断するが、現金を受け取る日と必ず同じとは限らない。

敦の取引では、商品を納めた後、合意した時期に支払われる予定だった。その間、事業には代金を受け取る権利があっても、銀行で使える現金はまだ増えていない。

約束どおり回収できるなら、それを前提に必要な資金を用意すればよい。問題は、初めての大きな売上に喜び、支払条件を自分の資金計画へ入れていなかったことだ。

請求書は、お客さんへ支払いを求める資料である。作った瞬間に、仕入れ先へそのまま渡して代金にできるお金とは違う。敦は、印刷した紙の大きさが、口座の小ささを補ってくれないことを初めて実感した。

月末締め、翌月払い。名前だけ聞いて安心しない

いつの納品がどの支払いに入るか。締め日と支払日が決まっているなら、その関係を具体的な日付へ直してみたい。月初と月末の納品で、代金を受け取るまでの日数が違う場合もある。

また、納品だけでなく、受領や検収、請求書の提出などの手続きが支払いに関わる契約もある。必要な書類の形式や提出先を知らずに進めると、商品は届いているのに支払いの処理が進んでいない、といった行き違いが起きる可能性もある。

敦は、先方の担当者へ商品を送っただけで、経理向けの請求先を確認していなかった。担当者が親切だったことと、社内の支払い手続きが完了したことを、同じ安心として受け取っていた。

初めての取引なら、価格を交渉するときに支払いまで確認したい。いくら売るかに加え、いつ、誰から、どの手続きで受け取るか。その答えがあって、仕入れを含む計画が作りやすくなる。

一件が大きいほど、未入金の影響も大きくなる

百万円の注文はうれしい。しかし、手元の資金が少ない店にとって、その代金を受け取るまで待つ負担も大きい。商品を用意する費用や配送費を先に出すなら、売上の額だけ見て受注してよいかは決まらない。

相手が有名な会社だから必ず予定どおり、という思い込みも避けたい。適切な手続きが必要なことは同じであり、自分の資金がその日まで持つかも別の話だ。

また、一社への販売に偏ると、その入金が遅れたときに影響が集中する。複数の取引がある場合でも、同じ相手へ未回収分を増やし続けていないかを見たい。

敦は「もう一件頼まれたら、もっと売上が増える」と期待していた。だが前の代金を受け取る前に同じ規模の注文を重ねれば、先に必要な商品代も増える。売上の合計だけ大きくしても、待つための資金は自動で用意されない。

未入金には、まだ期日前と、約束を過ぎた場合がある

代金が口座にないだけで、すぐ相手を疑う必要はない。合意した支払日が来ていないなら、予定どおりの取引かもしれない。まず期限と手続きの状況を確認する。

支払日を過ぎた場合には、単なる行き違いなのか、争いがあるのか、資金面の事情なのかなど、確認が必要になる。返事が一日遅いというだけで詐欺と決めつけることも、何も聞かずに無期限で待つことも適切とは限らない。

敦は、問い合わせるのが気まずかった。せっかくの大口顧客へ失礼になる気がしたからだ。しかし、契約に沿った入金の確認は、事業として必要な仕事だ。感情的な催促でなく、請求と支払予定を照らす連絡から始められる。

やり取りは記録に残す。誰へ何を確認し、どんな返事があったかが分かれば、後の対応も考えやすい。話が複雑になった場合や回収に支障がある場合は、状況に応じて専門家へ相談することも考えたい。

請求額の全部が、最終的な利益でもない

仮に百万円が予定どおり入っても、その金額すべてが敦の儲けではない。商品代、配送、事業の費用などがある。売上と利益を分けることに加え、利益と回収時期も分けて見る必要がある。

逆に、現金を回収できていないことだけで、直ちに売上がなかったと整理する話でもない。会計上の扱いは、取引の事実とルールに沿って確認する。損益の数字を都合よく入金の有無だけで変えるのではなく、資金の計画を別に持ちたい。

売上の一覧に未回収分が混ざるなら、どの取引がいつ入る予定かを追えるようにする。残高だけ見て驚くより、先の支払いへ備えやすくなる。

敦は、売上の集計表へ一列足せば十分と思っていた。しかし、取引先、請求日、期限、入金状況なども分けると、何を確認すべきかが明確になった。派手な管理画面ではないが、支払日に近い情報が並んでいた。

次の注文の前に、条件を小さく合わせる

小口で始める、支払いを段階に分ける、前払いを含む条件を相談するなど、取引のリスクを分担する方法はあり得る。ただし、どんな条件が可能かは相手や商売によって違う。こちらの希望だけで合意が変わるわけではない。

価格がよくても、回収までの期間が長すぎて自分に扱えない取引もある。逆に、受け取る時期が早く、作業や資金に合う条件なら、売上額が小さくても続けやすい場合がある。

取引相手を確認する仕事も、商品選定と一緒に考えたい。誰でも大口なら歓迎と考えるのでなく、何をどの条件で提供できるかを決める。売上の機会を断ることが、いつも弱気な判断とは限らない。

敦は、次の注文を喜ぶ前に、前の入金予定と必要な仕入れ代を確認することにした。お客さんとの関係を大切にするためにも、払うまで待てず困るような条件を、最初から約束しないことが必要だった。

入金を確認するときには、取引先の名義や金額だけでなく、どの請求に対応するものかを合わせたい。複数の注文をまとめて払う場合や、一部だけの支払いなら、合計が合って見えても未回収分が残ることがある。振り込んだと連絡があったことと、自分の口座で対象の金額を確認できたことも、同じ記録にはしないほうがよい。

請求書を送った日から、実際に入金を確認した日まで追える形にする。確認の手間は少し増えるが、何となく売上があるという安心より、次の支払いへ使える情報になる。

帳簿の売上と、使えるお金を並べて見る

カードで仕入れる支払日との時差は売れたのに引き落としが怖い物販で、成長に資金が追いつかない問題は売上を倍にするとお金が足りないで扱う。商品を用意するお金と、代金を回収する流れをつないで見たい。

販売前の予約額は、さらに別の段階の数字になる。予約一千万円と確定した売上で、注文や期待を現金と混ぜない話をしている。お金の話は、数字の大きさだけでなく、何が終わった時点かも重要だ。

アフィリエイトなどを選ぶ場合も、報酬の発生から入金までを確認し、未確定の成果や振込予定をその日の現金と扱わない。外注する事業でも、費用を払う時期と収入を見込む時期は、自分で把握する必要がある。

敦は、百万円の請求書を大事に保管した。ただし、それを見る代わりに口座を見なくなるのはやめた。売上が立ったことを喜び、そのお金を回収する仕事も進める。感嘆符の数より、その二つがそろうことのほうが商売には大切だった。

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