「分かりやすくまとめておいて」。そう言われて、画面の写真を貼り、矢印を付け、注意事項を赤くする。気づけば自分だけ、仕事をしながら仕事の説明書まで作っている。説明書を書く担当というわけでもないのに、なぜか毎回頼まれる。
ほめられるのは「きれいにできたね」の一言だったりします。けれど、マニュアル作りは、文字をそろえるだけの作業ではありません。自分には見えている道を、まだ歩いたことのない人も通れるようにする仕事です。いつも頼まれる人には、そのために自然と見ているものがあるのかもしれません。
説明書は、読まれた後に本当の姿を見せる
手順を書き終えたときは、抜けなどないように思えます。でも初めての人に渡すと、想像もしなかった場所で止まる。「その画面はどこから開くの?」「この数字は例なの、それともそのまま入れるの?」。こちらが説明を始める前に済ませていたことが、相手には分からないのです。
マニュアルを何度も直した人は、この場面に慣れているでしょう。操作するボタンだけでなく、作業を始める条件まで書く。入力する項目だけでなく、値を確認する場所も書く。次の工程へ進んでよい状態を見せる。読み手が止まった場所を一つずつ埋めるうちに、説明の見方が変わっていきます。
それは、仕事ができる自分を見せる文章とは逆の方向です。自分が迷わなかったところで、他人が迷うかもしれないと考える。説明を頼まれるのは、その想像を普段からしているからかもしれません。作業に詳しい人が、必ずしも初めての人へ説明しやすいとは限らないからです。
手順、判断、困ったとき。この三つを分ける
使いやすい説明を考えるときは、内容を三つに分けてみます。一つ目は、そのまま行う手順。二つ目は、条件によって選ぶ判断。三つ目は、想定どおりに進まないときの確認先です。これらが一つの長い段落に詰まっていると、読む人は自分に関係するところを見失います。
- 手順:何を、どの順番で行うか。
- 判断:どの状態なら、どちらへ進むか。
- 確認:当てはまらないとき、何を見直すか。
例えば、ファイルを送る説明なら、「保存して送信」で終わらせない。送る前に名前を確かめ、相手が開ける形式かを見る。添付できないときの確認を、通常手順とは別に書く。この例自体は特別なものではありませんが、いつもの仕事でも同じように説明を分けていたなら、それは使える力です。
全部を細かく書けばよいわけでもありません。慣れた人向けの説明に、毎回最初の操作から載せると邪魔になります。誰が何を知っている状態で読むのかを決める。この選び方も、手順を知ることとは別の仕事です。文量を増やす前に、読み手の出発点をそろえる必要があります。
赤い文字だらけの注意書きが、読みにくい理由
絶対に間違えてほしくない箇所へ赤字を付けていくと、いつの間にか紙面が真っ赤になります。すると、どこが特に大事なのか分からない。大声を出す人が増えた部屋で、聞きたい一言が聞こえなくなるのと似ています。
注意書きを増やす前に、配置を変えて解決できないか考えます。入力する前に必要な注意なら、入力欄の説明の直前へ。別の条件にだけ関係する注意なら、その条件のところへ。本文の最後で「実は最初に確認が必要」と言われると、読み手は戻らなければなりません。
装飾は、文章を派手にするためより、読む順番を助けるために使えます。まず一つだけ見てほしい結論は太字にする。補足は段落を分ける。同じ種類の情報は同じ見た目にする。マニュアルの読みやすさを直してきた人は、この調整を文章の中身と一緒に考えているはずです。
「分かりました」より、一人で進めるかを見る
説明を渡して「分かりましたか」と聞くと、多くの場面で「はい」が返ってきます。相手も、どこが分からないかまだ分からないことがあります。説明する側が隣にいると、無意識に口を挟んでしまうこともあるでしょう。分かりやすさは、その瞬間の返事だけでは確かめにくいものです。
可能なら、相手が一人で進める場面を想像して読んでみます。ここで必要な資料は手元にあるか。書いてある言葉は画面と同じか。終わったことをどう確かめるか。実際に試してもらうなら、止まった場所を記録し、本人が悪いという話にしないようにします。
止まった場所の記録は、次に書く説明の材料にもなります。一つの説明で扱うには長すぎたのか、別の前提知識が必要なのか。いきなり全体を書き直すより、つまずきの理由を見たほうが修正しやすくなります。説明を改善する人は、文章を作るだけでなく、使われ方も見ています。
マニュアルを作る力は、「自分ならできる」を「初めての人も進める」へ変える力。その仕事は、画面の写真をきれいに並べるだけでは終わりません。
職場の説明書を、そのまま持ち出さない
この力を外へ説明したいからといって、会社のマニュアルを見本として公開するのは別の話です。画面には顧客や内部の情報が含まれることがありますし、自分が作った原稿でも自由に公開できるとは限りません。見本を作るなら、公開してよい題材を使い、自分で書き直します。
例えば、誰でも使う身近な道具の準備、個人の作業の進め方、自分で用意した架空の表の読み方などです。その場合も、架空の例を実際の導入事例として紹介しません。どんな読み手が、どこで止まると考え、どう説明を変えたかを示せば、内部資料がなくても工夫は伝えられます。
完成品だけを載せるより、改善前と改善後を並べるのも一案です。「写真を足した」だけではなく、「完成した状態が分からなかったので、終了時の確認を加えた」と理由を書きます。そこに、説明の見た目では測れない判断が現れます。
古い説明書を一枚だけ、読み手の目で点検する
公開しない練習として、手元の説明を一枚だけ読み返すなら、各段落に「ここで何ができるようになるか」と小さく書き添えてみます。何も書けない段落は、単なる前置きか、前提を補う説明かもしれません。必要なら残しつつ、本当に行う操作とは見た目を分けます。
次に、指示の直前に必要な道具や情報が出ているか見ます。最後まで読んで初めて必要な物が分かる説明は、読み手を往復させます。作る人には見えていても、読む人にはまだ見えないものを探す。この点検ができるなら、普段頼まれていた仕事には、文章の体裁以上の中身があります。
自分の説明を残す場所も作れる
こうした案内を自分のWebサイトへまとめる方法もあります。初めて道具を選ぶ人や、サービスの使い方で迷っている人に、確認する順番を伝える。説明書を一人へ配る代わりに、同じ疑問を持つ人が読める場所へ置く形です。
商品選びに関係する情報なら、他社の商品・サービスを紹介し、購入や申し込みなどの成果が承認された際に報酬を得るアフィリエイトも一つの仕組みです。自分の商品がなくても扱えますが、説明が上手なら自動的に売れるわけではありません。紹介条件の確認や、検索している人へ届ける工夫が必要になります。
サイトの制作、記事の調査、情報更新まで含めると、説明を書く以外の作業もあります。一人で全部できるかを先に悩むより、どの疑問なら答えられるかを確かめてから、自作と外注を比べてもよいでしょう。任せる方法を選んでも、何を伝えたいかという材料は役立ちます。
今日試すなら、自分で何度も説明していることを一つ選び、手順、判断、困ったときの三つに分けてみてください。完成したら、初めて見る人が最初の一歩を選べるか読み直します。普段は「ついでにお願い」と言われている仕事の中にも、名前を付けてよい力があります。
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